水道水へのフッ素添加について厚生省及び日本水道協会の見解

平成12年11月28日

 

11月18日付けの新聞各紙で「厚生省が水道水へのフッ素添加を容認した」と伝えられたことについて、厚生省水道整備課及び日本水道協会の見解を示します。
 なお、日本水道協会の見解は昭和50年に出されたものでありますが、現在もこの見解が水道界における基本的な考え方となっています。

T 厚生省(水道整備課)の見解
 1. 水道行政の目的は清浄な(人の健康を害しない)水の供給であることから、フッ素添加(添加後の濃度が0.8mg/L以下であることが必要)により虫歯を防止する場合には、水道利用者の理解を得て実施されるべきと思料。

  2. なお、水道行政の観点からは、
 (1)水道行政の目的は清浄な水の供給であり、また水道水は不特定多数の国民により多目的に使用されるという性格を持っていることから、浄水処理のための凝集剤や消毒のための塩素等を除いては基本的に薬品を添加すべきではない、
 (2)フッ素濃度を一定の値(虫歯が予防でき班状歯を生じない濃度)に維持管理するための運営技術上の問題がある、と考えており、フッ素添加を積極的に推進する立場にはない。

U 日本水道協会の見解
 1. 昭和50年1月29日に、日本水道協会新潟県支部長である新潟市長から、日本水道協会会長宛に、「上水道へのフッ素添加問題について」調査依頼があり、衛生常設調査委員会で検討した結果、昭和50年9月9日、委員長は日本水道協会会長に2.のように回答し、これに基づいて、昭和50年10月13日、本会専務理事が新潟市長に3.のように回答したものである。

  2. 「上水道にフッ素を添加することについて(回答)
 小児の疾病については、その予防的観点から幾多の措置要因が考えられ、う歯予防もまた単にフッ素の添加のみで解決し得ないことは歯科医学の立場からの学説的にも意見のあるものと思量されます。したがって、う歯対策についても広く公衆衛生的対策を考慮すべきであり、当委員会で慎重審議の結果、貴書簡に示された判断(別紙 1.フッ素添加上の問題点)を全面的に支持することになり、水道水に特別にフッ素添加の必要性を認めるものでないと考えます。

  3. 「上水道へのフッ素添加問題について(回答)
 むし歯予防のため水道水にフッ素を人為的に添加するにあたっては、貴書簡別紙1のフッ素添加上の問題点があり、これら問題点の解決をみることなしにフッ素を水道水に添加する必要性は認められません。

[別紙1 フッ素添加上の問題点]

@総合医学的に十分な検討が必要である。
 フッ素は消毒用塩素のように単一作用だけでなく、完全無害といいきれない。

A最適添加量
 副作用がなく、かつ、むし歯の予防に最も効果的な注入率が設定されなければならない。なお、副作用は地域、水質、食習慣などによってことなるといわれている。

B維持管理の複雑化
 注入及び注入施設の管理のほか、全給水区域に均等濃度を維持しなければならない関係上、原水及び管末等の水質検査を常時行わなければならない。

C水道法上の解釈
 水道水は本来多目的に使用されるもので、清浄であるべきである。また、水道法上O.8PPM(mg/L)と定められたのは、自然水に含まれるフッ素の限界点を想定したもので、人為的な注入の上限を想定したものでない。

Dむし歯予防に水道へのフッ素添加が最適か
 歯ヘフッ素を補給する方法には食物への混入、ウガイ、ハミガキ、局所塗布、内服、水道水への添加等があるが、これらも総合的に検討されるべきである。

E薬品、注入施設、維持管理等の費用負担
 フッ素添加をすることによって当然にこれらの経費が想定されるので、仮に水道事業が負担するとしたら水道料金への影響が考えられる。

F住民の合意
 水道ヘフッ素を添加することによって、個人の意志の有無にかかわらず、飲用を強制されることになるので全住民の合意が要件である。

G投資効果
 給水される水のうち飲用されるのはわずか1パーセント程度であり、さらに、フッ素の効果は全利用者に有効なものではなく、およそ15歳以下の者のみに効果があるともいわれている。従って添加されたフッ素のうち99.5パーセント以上が活用されずに捨てられる効率の悪さがある。

(参考資料)フッ素について(上水試験方法解説編 1993年版)
1.1 一般的事項
 1) 物性、性状等
 フッ素は、ハロゲン元素の一つで、最も反応性の高い元素である。そのため、自然界にはフッ化物(F-)、珪フッ化物(SiF62-)の化合物の形で存在し、元素の形では存在しない。いずれも無色のイオンで、ナトリウム塩は水溶性であるが、アルミニウム、カルシウム、マグネシウムの各塩はわずかしか溶けない。主な鉱石はホタル石(CaF)、氷晶石(Na2AIF6)、フッ素リン灰石〔Ca10F2(PO4)6〕で、自然界に広
く分布している。したがって、水中のフッ素は、主として地質に由来することが多い。しかし、近年、フッ素化合物を使用する工場からのフッ化物の大気中への飛散あるいは排水中への排出により、フッ素が水中に混入する機会が増加している。

  2) 用途
 フッ素化合物は、アルミニウム電解、鉄、過リン酸肥料、タイル、煉瓦、硝子繊維、セラミックス、半導体等の製造、練り歯磨への添加剤などに使用されている。

3.2 環境での挙動
 1) 地殻等自然界の含有量
 フッ素の地殻中濃度は300ppmで、クラーク数は第17位である。
 2) 大気、水、食品等の含有量
 環境中のフッ素濃度は、大気で0.5〜3ng/m3以下、雨水で0〜0.6mg/L、海水で1.3〜1.4mg/L、河川水で0.1〜0.2mg/L、井戸水で1mg/L以下である。
 また、食品中等のフッ素濃度は、食物で1mg/kg以下、魚貝類で10〜30Omg/kg、茶(葉茎)で50〜1,000mg/kgである。
 なお、オランダでは、汚染源のない地域の大気は30〜40ng/m3、汚染源のある地域では70ng/m3、アメリカ、カナダでは20〜2000ng/m3という測定例がある。地下水では地質によるが、花崗岩地帯では1.4mg/L程度、温泉水で1.9mg/L程度で、10mg/Lを超える例は少ない。河川水で工場排水の影響を受けた地域では0.2〜1.3mg/Lという測定例がある。市販のフッ素入り歯磨は、現在日本では1mg/kg以下となるよう指導されている。

 3) 摂取経路
 WHOは、大人についての摂取量を、食物からは全体の80〜85%で、その他に飲料水から0.03〜0.68mg、歯磨きから0.2〜0.3mg、空気からはないとし、1日当たりのフッ素摂取量を1.4〜6.0mgと試算している。

3.3 健康影響
 1) 急性毒性
 高濃度のフッ素化合物の摂取では、初期症状は嘔吐、腹痛、吐き気、下痢、痙攣で、病理学的変化は出血性胃炎、急性胃炎、ある程度の肝臓、心筋の障害等があり、このほかに体重減少、筋無力症、筋痙攣、肺充血、心臓失調、骨軟化症、神経痛、再生不良性貧血、腎障害、甲状腺障害等があげられている。致死量は、ヒトでフッ化ナトリウムは約5gである。

  2) 慢性毒性
 飲料水からのフッ素の長期的摂取による毒性は、斑状歯の発生と骨格フッ素中毒症である。
 斑状歯とは、フッ素による歯冠部の白濁を主とする発育不全症であり、正しくは慢性歯牙フッ素中毒症と呼ぶ。斑状歯は、歯の表面に不規則の白亜状の斑点ができ、次いで黄色又は褐色の斑点ができる。
(この後1行抜け)
進行するとホウロウ質が欠如して穴があき、歯の表面が侵食された状態となる。斑状歯の発生はほとん
どが永久歯に限られ、その形成期間は乳幼児から14歳ぐらいまでに現れるのが特徴である。
 骨格フッ素中毒症では、骨格構造に影響を受け、ひどい場合は歩行障害を生じる。
 フッ素の変異原性について、バクテリア及び昆虫を用いたフッ化ナトリウムの研究で変異原性は認められていない。
 発がん性については、IARC(国際がん研究機関)はヒトへの発がん性に関して有効な文献は見当たらないとしている。

  3) その他―水道水へのフッ素添加
 フッ素をある程度含む水を飲用すると齲蝕(虫歯)予防に効果があるということから、一時飲料水へのフッ化物添加に関心が高まった。1952年(昭和27年)までの間に2市町でフッ化物(0.6mg/L程度)の添加実験が行われた。虫歯の予防及び斑状歯の発生等については必ずしも明かにはならなかった。その後、フッ素添加は行われていない。また、ある市で水源の一部に水質基準(0.8mg/L)を超える1.2mg/L程度のフッ素を含む地下水が使用されていたため、1970年(昭和45年)以来斑状歯が発生し、フッ素が通常の浄水工程では除去できないことから、フッ素除去のための電解設備を設置し、フッ素濃度を0.5mg/L以下に低減させて給水を行った例もある。
 日本水道協会では、1975年(昭和50年)に歯科医師会からフッ素添加について要望のあった新潟県に対する回答で「フッ素添加は種々の問題があり、現段階でフッ素を水道水に添加する必要性を認めない。」との見解を示した。

3.4 水質基準設定の経過
 斑状歯の発見は、メキシコのドラゴン市におけるKuhns(1888)によるものが最初であり、次いでアメリカ移民の中にEager(1901)により発見され報告された。その後、Dean(1936)による綿密な疫学調査により、飲料水中のフッ素濃度と斑状歯発生の関係が明かにされた。この調査結果によれば、約1mg/Lのフッ素を含有する水の連続飲用では、発生率が40〜50%に上昇する。しかし、この濃度範囲では、症状は「非常に軽度」か「軽度」の程度である。
 1950年(昭和25年)の「飲料水の判定標準とその試験方法」では、上記の調査結果を考慮し、フッ素について1.5mg/Lと定めている。しかし、その後の国外、国内の多くの疫学調査から、1958年(昭和33年)の水質基準に関する省令(厚生省令第23号)では0.8mg/Lに定められ、1978年(昭和53年)以後mg/L表示になり現在に至っている。
 WHOの飲料水ガイドライン(1984及び1993)では1.5mg/Lとなっており、アメリカ環境保護庁(EPA)の暫定飲料水基準では2mg/Lとなっている。その他世界各国の基準をみると、おおむね0.7〜2.0mg/Lの範囲にある。

参考図表